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7.212026
事業承継と遺言書──経営者が知っておきたい遺言の基本と注意点

「事業承継の準備」というと、後継者選びや自社株式の引継ぎ方法をまず思い浮かべる経営者の方が多いのではないでしょうか。しかし、もう一つ見落とされがちな大切な備えがあります。それが「遺言書」です。もし経営者に万一のことがあった場合、遺言書がなければ、自社株式や事業用資産は法律の定めに従って複数の相続人に分かれてしまう可能性があります。この記事では、事業承継における遺言書の役割と、遺言書の種類、行政書士がお手伝いできる範囲について、香川県で事業承継のご相談をお受けしている行政書士の視点からご説明します。
なぜ事業承継に遺言書が必要なのか
中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)では、親族内承継を行う場合について、「将来の相続発生も見据えて、相続財産を特定し、相続税額の試算、納税方法等を検討する」ことの重要性が指摘されています(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」令和4年3月改訂)。
自社株式や工場・店舗などの事業用資産は、多くの場合、経営者個人の名義になっています。遺言書を残さないまま経営者が亡くなると、これらの資産は民法の定める法定相続分に従って、配偶者や子どもなど複数の相続人で分け合う「遺産」として扱われます。後継者となる一人の子に経営権を集中させたいと考えていても、遺言書がなければその通りにならない可能性があるのです。
実際、同ガイドラインでは、財産の承継における課題の一つとして「株式・事業用資産の分散防止」が挙げられています(出典:同上)。後継者に経営権を集中させ、円滑な事業運営を続けてもらうためには、生前からの備えとして遺言書を用意しておくことが、有効な手段の一つになります。
遺言書の種類と、行政書士がお手伝いできること
遺言書には、主に次の3種類があります。
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書です(民法968条)。平成31年1月13日に施行された法改正により、財産の一覧である「財産目録」については、パソコンで作成したものや預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付する方法も認められるようになりました。ただし、自書によらない財産目録には、そのページごとに署名・押印が必要です(出典:法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」)。
また、令和2年(2020年)7月10日からは、作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。この制度を利用すると、紛失や改ざんのリスクを減らせるほか、相続開始後に家庭裁判所で行う「検認(けんにん:遺言書の内容を家庭裁判所が確認する手続き)」が原則不要になります(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」)。
公正証書遺言は、公証役場で、公証人と証人2人以上の立会いのもとに作成する遺言書です。遺言者が遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人がこれを筆記し、遺言者・証人が内容の正確性を確認したうえで、それぞれが署名・押印します(民法969条)。原本は公証役場に保管されるため紛失や偽造のおそれが低く、検認の手続きも不要です(出典:日本公証人連合会「Q4.公正証書遺言は、どのような手順で作成するのですか?」)。
秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも明かさないまま、その存在だけを公証人と証人に証明してもらう方式です。利用件数は多くありませんが、制度としては存在します。
行政書士は、これら3種類すべての遺言書について、文案の作成支援を行うことができます。公正証書遺言では証人としての立会い、秘密証書遺言ではその作成支援も含まれます(出典:日本行政書士会連合会「遺言・相続」)。
ただし、行政書士が対応できるのは、あくまで書類作成の支援までです。次のようなご相談は、それぞれの専門家におつなぎしております。
- 相続税額の計算や納税方法の具体的なご相談 → 税理士にご相談ください
- 遺言をもとにした不動産の名義変更(相続登記) → 司法書士にご相談ください
- 相続人間で意見が対立し、交渉や法的手続きが必要な場合 → 弁護士にご相談ください
よくあるご質問
Q. 遺言書さえ作れば、事業承継の準備はそれで十分ですか?
A. いいえ、遺言書はあくまで準備の一つです。後継者の選定・育成や、自社の経営状況の見える化など、他の準備と合わせて進めることが大切だとされています(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」)。
Q. 遺言書があれば、相続でもめることは絶対にありませんか?
A. 遺言書があっても、内容によっては相続人の間で意見が分かれることはあり得ます。「絶対にもめない」とは言い切れませんが、経営者ご自身の意思をあらかじめ明確な形で残しておくことは、もめごとを防ぐための備えの一つになります。
Q. すでに公正証書遺言を作成しています。内容を見直す必要はありますか?
A. 事業承継の方針(後継者や株式の分配方法など)が変わった場合には、遺言の内容を見直す必要が出てくることがあります。状況が変化した際には、内容を確認されることをおすすめします。
Q. 遺言書の作成だけを行政書士に依頼することはできますか?
A. はい、可能です。遺言書の文案作成や公正証書遺言の証人立会いなど、事業承継全体の相談と切り離して、遺言書の作成支援のみをご依頼いただくこともできます。
まとめ
- 遺言書がないと、自社株式や事業用資産が法定相続分に従って複数の相続人に分散する可能性があります
- 遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります
- 自筆証書遺言は法務局の保管制度を利用することで、紛失防止や検認省略のメリットが得られます
- 行政書士は遺言書の文案作成支援や証人立会いを行えますが、相続税の計算や登記、相続人間の紛争対応については税理士・司法書士・弁護士と連携します
- 次回は「事業承継で使える税制優遇──行政書士の視点から概要を解説」というテーマで、事業承継に関わる税制の概要についてご紹介します(具体的な税額計算等は税理士にご相談ください)
あおば行政書士法人
代表行政書士 大林 真由子
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※ 本記事は2026年7月時点の公表データ・法令・制度に基づく一般的な情報提供です。個別のケースについては、必ず専門家にご相談ください。
引用元一覧
1. 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
2. 法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html
3. 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/01.html
4. 日本公証人連合会「Q4.公正証書遺言は、どのような手順で作成するのですか?」 https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q10
5. 日本行政書士会連合会「遺言・相続」 https://www.gyosei.or.jp/service/testament







