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6.62026
事業譲渡契約書の作り方──押さえるべき条項と注意点

「事業を誰かに譲ることが決まったが、何をどう書けばよいのかわからない」──そんなお声をよく伺います。事業譲渡(じぎょうじょうと:事業そのものを対価を受け取って他者に引き渡すこと)の場面で最初に必要になる書類が、事業譲渡契約書です。
口頭での合意だけでは後からトラブルになるケースが多く、「何をいくらで渡したのか」「どの資産が対象なのか」を文書で残すことが、買い手・売り手双方の安心につながります。
この記事では、事業譲渡契約書の基本構成と押さえるべき条項のポイントを、行政書士の視点で整理します。最後までお読みいただくと、「どんな内容を書く必要があるか」の全体像がつかめるはずです。
1.事業譲渡とは──株式譲渡とはどう違うのか
事業承継の場面では「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの方法がよく比較されます。この2つは、法律上まったく異なる取引です。
- 株式譲渡:会社の「所有権(株式)」を移す。会社に帰属する資産・負債・契約はすべてそのまま引き継がれる
- 事業譲渡:会社の「事業内容」の一部または全部を選んで移す。何を移転するかを契約書で個別に定める
中小企業の事業承継では、「この設備は引き継ぐが、この借金は引き継がない」「この許認可だけ承継したい」という選別ができる事業譲渡が選ばれるケースも少なくありません。
なお、株式会社が事業の重要な一部または全部を譲渡する場合は、原則として株主総会の特別決議(議決権を持つ株主の3分の2以上の賛成)が必要です(法的根拠:会社法第467条第1項)。
2.事業譲渡契約書に盛り込む主な条項
(1)譲渡対象の特定
契約書の核心は「何を渡すか」の明確化です。次のような項目を具体的に列挙します。
- 有形資産:機械・設備・在庫・什器備品
- 無形資産:屋号・顧客リスト・ノウハウ・Webサイト
- 債権・債務:売掛金・買掛金(債務を引き継ぐ場合は、債権者の同意が別途必要です)
- 従業員:誰を引き継ぐか、雇用条件の維持方針
- 契約・許認可:取引先との契約、営業許可の引き継ぎ
「一切の資産・負債を承継する」という漠然とした記載は後のトラブルのもとになりやすく、資産・負債の目録を別紙で添付するのが実務上のポイントです。
(2)譲渡代金と支払方法
譲渡代金をいくらにするか、いつ・どのように支払うかを明記します。
- 支払期日:引き渡し日(クロージング日)に一括か、分割払いか
- 支払方法:銀行振込先
- 価格調整条項:引き渡し日の在庫・売掛金の変動に応じた調整が必要な場合はその方法
※ 譲渡代金の妥当性評価(企業価値算定)は会計士・税理士の業務領域です。
(3)表明保証条項
表明保証(ひょうめいほしょう)とは、譲渡人が「この事業には隠れた負債はない」「財務諸表は正確だ」といった事実を、相手方に対して保証するものです。万一、保証した内容が虚偽であった場合は損害賠償請求の根拠になります。法的判断が伴う表明保証の内容については、弁護士にご相談ください。
(4)競業避止義務
会社法第21条第1項により、事業を譲渡した者は、当事者間に別段の合意がない限り、事業を譲渡した日から20年間、同一の市区町村および隣接する市区町村において、同一の事業を行ってはならないとされています(法的根拠:会社法第21条第1項)。
さらに、当事者間で「競業を行わない」旨の特約を結んだ場合、その特約は30年を上限として効力を持ちます(法的根拠:会社法第21条第2項)。
なお、競業避止義務の地域や期間を過度に広げた場合は、公序良俗違反として無効と判断されることもあります。具体的な範囲の設計については弁護士にご確認ください。
(5)許認可の承継に関する条項
業種によっては、事業譲渡に際して許認可の引き継ぎ手続きが必要です(第07回・第08回の記事参照)。
- 建設業許可:効力発生日より前の事前認可が必要(建設業法第17条の2)
- 飲食店営業許可:地位承継届の提出で承継可能(食品衛生法)
- 運送業:事業譲渡の認可申請が必要(貨物自動車運送事業法)
契約書の中に「許認可の引き継ぎ手続きを誰の責任で、いつまでに行うか」を明記しておくことで、後のトラブルを防げます。
(6)クロージング条件
「クロージング(事業の引き渡し日)」を定め、それまでに満たすべき条件(許認可の移転完了、行政機関への届出など)を列挙します。条件が満たされなかった場合の解除条件も合わせて記載するのが安全です。
3.想定Q&A
Q:事業譲渡契約書は、必ず公正証書にしなければなりませんか?
A:法律上、公正証書にすることは義務ではありません。ただし、公正証書にすることで証拠力が高まります。大規模な譲渡や、当事者間に信頼関係が築きにくい場合は、公正証書化を検討する価値があります。公正証書の作成は公証役場で行います。
Q:個人事業の事業譲渡にも契約書は必要ですか?
A:法律上の義務はありませんが、トラブル防止のために作成を強くお勧めします。譲渡対象を明確にし、「言った言わない」のトラブルを防ぐために書面で残すことが重要です。許認可の引き継ぎや従業員の処遇についても、書面で明確にしておくと安心です。
まとめ
- 事業譲渡では、会社法第467条により株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)が必要(重要な事業の一部・全部の場合)
- 契約書には「譲渡対象の特定」「譲渡代金」「表明保証」「競業避止義務」「許認可の承継」を盛り込む
- 競業避止義務は会社法第21条により原則20年(特約により最長30年)
- 譲渡資産・負債の目録は別紙で添付し、漠然とした記載を避ける
- 許認可の承継条項を契約書に明記することで、後のトラブルを防げる
次回(6月15日公開予定)は、「M&A(第三者承継)の基本と行政書士ができること」をお届けします。親族・従業員に後継者がいない場合の選択肢として、第三者へのM&Aの基本的な流れと、行政書士が関われる部分を整理します。
あおば行政書士法人
代表行政書士 大林 真由子
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※ 本記事は2026年6月時点の公表データ・法令・制度に基づく一般的な情報提供です。個別のケースについては、必ず専門家にご相談ください。
引用元一覧
- e-Gov法令検索「会社法 第467条・第21条」https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 国土交通省「建設業者の地位の承継について(建設業法第17条の2・3)」https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
- 厚生労働省「食品衛生法施行規則の一部改正等」2023年12月13日施行 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001176060.pdf
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf







